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二つの理論は、180度相反した教育に対する経済学的アプローチである。図2-4で表したように、人的資本論では、教育を受けることで個人の生産性があがり、それはそのまま収益性へとつながる。対し、シグナリング理論では、教育は生産性の向上につながることはなく、そこには自分の能力を示すシグナルが残り、その価値で収益を上げるもの、という考えだ。

 これらを用いて「ゆとり教育」を検証すると、その前提として、ゆとり教育による教育水準の低下は、これまでより多くの教育費用がかかることに関係する。なぜなら、学校で教える内容の削減により、他で補いこれまでと同じ水準をキープするはたらきかけがあると考えられるからである。それをまず人的資本論的考えでは、費用の増大は教育投資水準の低下をもたらすことになり、この低下はつまり生産性の低下を意味するので、経済全体で生み出される生産物価値が低下することになる。両親の所得が低いほどこの効果が強く出る場合、所得分配の不平等も拡大することになる。そしてシグナリング理論では、世代間を越えて所得分配の不平等格差が固定されがちになる可能性を高めることとなるが、他方では、教育投資水準が高くても低い生産性を持つ個人が増加するので、教育投資水準の高い個人の平均的生産性が低下するという結果、同世代間の所得分配の不平等は縮小するはこびになると考えられる。
 この結果を受け、ゆとり教育による基礎学力低下は、生産性の増加ということにはつながらず、所得格差が全面に表れるだけのものであるということになる。
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